革靴の踵の穴。これは不良品?

こんにちは。いつもpelleteria ibonaのブログをご覧いただきありがとうございます。

雨が続いて体調を崩したりしていませんでしょうか。あまり聞かない表現ですが、梅雨真っ盛りといった感じですね。洗濯物も干せないですし、傘を持って出るのか出ないのか、子供を自転車で送っていくのか歩いたほうがいいのか本当に悩ましい季節です。じめじめした嫌な季節ですが、もうゴールは目の前です。履いていく靴を考えなければいけない時期から、今日はこれを履こう!と楽しみになる季節が目の前に迫っていますね。

 

今日は靴についてのちょっとした豆知識をご紹介します。皆さんは革靴の踵に穴が開いているのをご存知でしょうか。小さな穴でもありますので気づかなかったという方もいらっしゃるかと思いますし、逆に長年気になっていた方もいらっしゃるかと思いますし、もちろんご存じの博識な方もいらっしゃるかと思います。ちなみに私はこの仕事をするまで、この穴の存在を知りませんでした。

上の画像の穴です。ibonaでもzuccottoでもお問い合わせをいただいたり、何なのかと確認の連絡や、中には不良品だとご指摘をいただくことが時々あったりします。

先にお応えしておくと、これは革の不備でもなく、製造での失敗でもありません。つまり不良品ではありません。これは職人の手で作られる靴の製造過程において必ず付く穴になります。今回はこの穴がどうしてつくのかをご紹介します。

 

店長加藤の記事で

靴づくりにはたくさんの工程があります。

という記事がありました。靴を作るのには大きく分けて、

①裁断

②甲革づくり

③つり込み

④底付け

⑤仕上げ

こんな感じの工程で作られます。この記事も見ていただければ、靴づくりの流れ、できることできないことを知っていただけるかと思います。ぜひ一度ご覧ください。

上の記事でも紹介されていますが、釣り込みという作業があります。靴の本体ともいえる革でできた部分(アッパー)を木型に沿わせて靴の形にしていく工程です。この工程で、アッパーを木型にしっかりと固定し、正確な作業をするために必要不可欠なのがこの穴です。

 

 

これだけをみてもわかりにくいと思いますので、釣り込みの作業を簡単にですが、画像で紹介していきます。

先ずは必要な部材ですが、基本的には

木型

靴の良しあしを決める一番の要因となる部材です。ibonaもZUCCOTTOもオリジナルの木型を使っており、すべて日本人の足の形に合わせて作ってあります。

アッパー

画像はZUCCOTTOのz-688。踵が小さく抜けやすい方にも履いていただけるようかかと部分にはストレッチ素材を使っています。他の部分はすべて本革。表革だけ本革で裏は合皮や生地を使う靴もよく見かけますが、名進の工房では裏もすべて本革でしか作っていません。これも1足1足甲革師と呼ばれる職人さんの手によるものです。

中底

以前にもご紹介しましたが、地面に触れる本底と、足裏に触れる中敷きの間に入る素材です。画像は女性用のパンプスに使うものなので、美しさのため薄めのものを使用します。薄いですが、通気性やクッション性は見た目をはるかに上回るびっくりな性能を持っています。

部材はこの3つです。これをいろいろな道具、機械と、職人の手によって釣り込んでいきます。

工程は

①アッパーの必要な部分に糊を塗る

つり込みのための下準備です。

②木型に中底を固定する

これも下準備に入ります。これもくぎのようなもので固定していきます。

③アッパーにカウンターを入れる

かかと部分に芯材(カウンター)を入れます。これにより踵が固くなり、足へのフィット感が生まれます。基本的にどんな革靴でもつま先と踵には芯材を入れて硬くしてあります。

④トゥラスターでつま先を釣り込む

本格的につり込みスタートです。つま先側を木型に沿うように引っ張り形を作っていきます。使うのはイタリア製のトゥラスター。以前ネットで某有名メーカーさんの紹介記事を見たことがあります。そこでは国内ではここにしかないと紹介されていましたが、実はここ名進の工場でも大活躍しています。意外とほかの工房でもひっそりと活躍しているのかもしれません。

釣り終わるとこんな感じになります。

きれいに木型に沿ってアッパーが靴の形になっています。厚く強い本革をこの形にするためにはかなりの力で引っ張る必要があります。

 

⑤かかと部分を固定する

この後にかかと部分のつり込みをしていきますが、ここで踵の穴の理由でもあるくぎを打ちます。製造の過程上、これ以外にきちんと固定する方法はありません。

⑥踵を釣り込む

釣り込む前の踵はこんな感じになっています。これをつま先とは別の機械を使い、同じように釣り込んでいきます。つま先側のつり込み後の画像を見てもらうとわかるように、木型にぴったりと沿うように釣り込んでいきます。木型は、靴の内部、容積を緻密に計算されて作られていますので、きちんとこれに沿わないと靴とは呼べません。ですのでかなり強い力をかけて引っ張り、木型に沿わせて行きます。踵を釣り込む機械では釣り込んでそのまま釘を打つことで、糊と釘の二つで踵側のアッパーと中底をくっつけます。私も知らなかったことですが、靴には釘が入っているのです。

 

つり込みの作業はこんな感じです。お見せできない部分もありますが、大まかには説明できたかと思います。この後、底付けの作業に入る時に踵の釘が抜かれます。つり込みでアッパーを木型に沿わせるときには、とても強い力で引っ張り沿わせていきます。この釘がないとアッパーが引っ張り込まれて必要以上に踵が下がってしまったり、最悪の場合ですと木型から抜けてしまいます。

そういったことを防ぐため、つまり職人の手仕事としての正確さと丁寧さのためのものです。

 

私たちにとっては当たり前のことですが、ほとんどの方は靴がどのようにして作られるのかご存じないと思います。ですのでこういったお問い合わせは決して珍しくなく、丁寧に説明してご理解をいただいています。

おそらくどのメーカーさんも同じような工程、同じような作業で靴を作っていきます。ibona以上のお値段の靴であればどこのメーカーさんでも踵には穴が開いていると思いますので気になる方は一度確認してみてください。

ちなみにですが、ナイキやアディダスのようなキャンバス地を使ったスニーカーではこの穴は見かけません。素材の関係で見えないのか、機械に流すことで作っているからなのかわかりません。いろいろと自分なりに調べてみましたが、その製造工程などはあまり見つけることができませんでした。ただ、確実に言えることは、1足1足人の手で作る靴では必ずこの穴が必要になります。合皮を使ったり機械で流して作ることで、価格を抑えた安価な靴ではこの穴はないようでした。

 

この穴については、不良品だとお叱りを受けたこともあり、最初のころはネガティブな印象しか持っていませんでしたが、今ではとても誇らしく思っています。この穴は株式会社名進の職人たちが1足1足を丁寧に大事に作った証です。

この記事を読んだいただいた方が、お持ちの靴に、今まで以上の愛着を感じていただけることを願っています。

 

 

 

 

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